20１5年5月。皆さん、今年のゴールデンウィークは
どんな過ごし方をしましたか？
私は茨城の実家に帰省したのですが、
そのタイミングに合わせて
中学時代にお世話になった
先生の定年退職を祝う会を
同窓生たちと企画・実施してきました。

その先生は社会科担当の
厳しくも温かさあふれる素敵な方で、
26年経った今も雰囲気は全く変わっておらず、
むしろ魅力が増していて、
私たちを送り出してくれた後も
熱く深みのある教育をし続けてきたのだろな…と感じました。
皆で先生を囲み、中学時代の想い出話に花が咲くと、
記憶がどんどん呼び覚まされてきます。

先生は当時34歳。美化するつもりはないけれど、
改めて気づくのは
「本気で、全力で」私たちと向き合ってくれていたということ。
めちゃくちゃ叱られたし（何度かビンタもくらったし）、
歴史の授業が楽しみになるぐらいたくさんネタを仕込んでくれていたし、
一緒にバカやって思い切り笑ったことも多かったし、
個人的な悩みにもとことん相談にのってくれたし…。本当に感謝、感謝です。

あの頃の先生よりも7歳も年を重ねている自分。
懸命に取り組んでいる自負はあるけれど、
果たして私が先生に対して感じるような「いい仕事」ができているだろうか…？
もっと本気で取り組もう、もっと成長しよう…
定年退職となった今も私たちを導いてくれる先生でした。

さて、今月のキーワードは、
周囲との深い関係構築の際に意識したい言葉、
『 惻隠之心（そくいんのこころ） 』
をお送りしたいと思います。　　

『孟子の性善説・四端説の一つで、
「惻隠の心は仁の端なり」を略した言葉。
惻隠とは、いたむ・憐れむという意味。
他人を思いやったり、悲しみや痛みに寄り添ったりする心。
孟子は、最高の徳といわれる「仁（愛）」に通じる出発点に、
この「惻隠の心」があると説いている。
「惻隠の心」は無理に押しつけたり、教育しなくとも、
生来人間に備わっている心であり、
素直に自然体で相手と向き合うことが大切であると示唆している。

慌ただしく過ぎていく時の中で、
私たちはいつしか自分のことばかりになってはいないだろうか。
自分に課せられた役割や立場に囚われ、
相手を思いやる自然な心を忘れてはいないだろうか。
充実した人生、未来への扉は、
周囲の人たちとひとりの人間として
素直に向き合うことで開かれるのではないだろうか』

私の仕事柄、5月は管理職やリーダーに昇進した方々を
対象とした昇格時研修が多くなります。

組織やプロジェクトのリーダーとして、
より大きな成果を出すために
どのように周囲を動機付け、巻き込み、育てていくか―
そのコツ・ノウハウを知りたいというニーズです。
基礎理論や成功事例から導きだされたスキルは確かに存在し、
それを参考に現場で展開することは、決して悪いことではありません。

しかし、本質的に関係性を深め、人を育てていこうとするのなら、
理論や成功事例を先行させるのではなく、
相手と「素直に自然な心で向き合い、思いやる」ことから
始めることが大切であると心から想います。

日々の声がけや挨拶、相手の考えや想いに心を向けること、
ちょっとした気配り、共に過ごしていることへの素直な感謝、
本音で語り合う時間をつくること…
高尚なノウハウよりもっと重要なことがある―
青臭いかもしれませんが、そんなことを研修の場で共有しています。

『素直な心・熱意・努力といった言葉は、
あまりにプリミティブ（素朴）なために、
誰も気に留めない。
しかし、そういう単純な原理こそが人生を決めていくポイントなのだ。』
―稲森和夫（日本の実業家・京セラ創業者）

『あなたが他人に対して尊敬と思いやり、
そして暖かい心を抱いていれば、
それは気温や空気の香りのようにまざまざと相手に伝わります。
そしてあなたの人間関係は肯定的なものとなります。』
―ロバート・コンクリﾝ（アメリカ・自己啓発作家）

「惻隠之心」―
今日、あなたは何人の人と
自然体で（素直な心で）向き合えただろうか？
あなたは周囲の大切な人たちの気持ちに
どれだけ“寄り添えて”いるだろうか？

時には役割や立場、責任という鎧を脱いで、
ひとりの人間として相手と向き合ってみよう。
所詮私たちは一人で生きていくことはできない。
人と人とのつながりの中でのみ生きていけるのだ。
72億を超える人が存在する中で、
たまたま一緒の時を過ごしている「奇跡的な縁」―
素直で自然な「思いやりあふれる心」で、周囲の人たちと接してみよう。
あなたを悩ませている問題の多くが、
「惻隠之心」によって解決に向かうかもしれない。